天理図書館の「手紙」展
天理大学附属天理図書館で開催中の「手紙――筆先にこめられた想い/開館八十四年記念展」(2014年10月19日から11月9日まで)をみてきました。
天理図書館所蔵の名品のなかから、藤原定家から谷崎潤一郎まで、歴史上の人物から歌人、作家にいたるまで、時代も職業もさまざまな人物の「手紙」に焦点をあてた展覧会でした。
http://www.tcl.gr.jp/tenji/k84.htm
今回、奈良まで足をはこんだのは、谷崎潤一郎の、根津松子(のち谷崎松子)さん宛の手紙が展示されたからです。これは全集にもおさめられていない貴重な、お二人がまだ恋人同士になっていないころの手紙で、内容もおもしろいものでした。
ほかにも、曲亭馬琴の小津桂窓にあてた八メートルくらいにおよぶ手紙(内容はほとんど愚痴)や、森鴎外が軍医・森林太郎としてしたためた手紙、東大英文学科の講師時代の夏目漱石(金之助)が「僕は英文科の語学試験なんかつくりたくない(大意)」という手紙など、内容も文字も、その人となりがわかるようなセレクションで、みごたえがありました。東京では来年、天理ギャラリーで開催されるそうなので、書と人について興味のある方は足をむけてみてはいかがでしょうか。
天理図書館の外観を遠くから。昭和五年に建てられた建造物(坂静雄設計)です。ほんのすこし、紅葉がはじまっていました。
谷崎の戦争中につくった俳句異聞
谷崎の大戦中につくった俳句の、公刊されているものの初出は「A夫人の手紙」(昭和二十五年一月「中央公論文藝特集」)です。「A夫人の手紙」自体、虚構なのか実際の手紙なのかわからないように描かれているので、ちょっとひねりがありますけれども、これが活字化されたものの最初でまちがいなさそうです。
谷崎潤一郎の「歌集」
谷崎の俳句って、そんなにめずらしいのですか、と夕方から数件編集室にといあわせがありました。ええっと。当時の文化人はたしなみでよく歌をよむとしかいいようがないのですが。
日経の記事、画像貼っておきます。記事のリンクは前項参照。
『谷崎潤一郎家集』という昭和五十二年(1977年)五月に湯川書房から出た歌集があります。生前谷崎がみずから編んでいた歌集を、13回忌にあわせて谷崎松子さんが出版したものです。内容は350首、短歌、俳句、漢詩など。「優れてゐるもの」ではないけれど、私的なものとして(だから「家集」)、思い出深いものとしてまとめていたことを、松子さんがあとがきに書いてます。
この『家集』によると、昭和二十年二月七日に「春の雪」がよまれたこと、同年梅のころに「梅が香」のうたがよまれたことがわかります。戦時下でも「細雪」を執筆し、「源氏」の口語訳に精力的に赤字をいれていた谷崎の、前向きな日々がうかがえます。
『谷崎潤一郎家集』は来年春に刊行スタートする「谷崎潤一郎全集」に収められます。
また、「細雪」の「私家版」の研究成果も、全集に「解題」として収められます。
帝塚山大学の展示
帝塚山大学で谷崎の稀覯書と書簡の展覧会が開催されるらしい。メモ代わりに貼っておきます。
帝塚山大学「貴重書展示『谷崎潤一郎・耽美の世界 ~肉筆と稀覯本(きこうぼん)を中心に~』 7/8(火)より開催! 17年ぶりの貴重書一般公開!初披露の展示品もあり。
7/16(水)には展示解説つきの公開講座も。」
http://www.tezukayama-u.ac.jp/news/2014/07/01/-78-17716.html
展示会関連でこんなニュースも。
日経「谷崎潤一郎が戦時下に俳句 「細雪」掲載中止で不安詠む」(2014/7/4 12:23)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0401K_U4A700C1CR0000/
NHK「谷崎潤一郎が太平洋戦争中に作った俳句」(7月4日 朝)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140704/k10015733801000.html
NHKウェブニュースの画像も貼っておきます。
期間があまり長くないのが残念です。
生誕105年太宰治展 神奈川近代文学館
神奈川近代文学館で5月25日まで開催中の「生誕105年 太宰治展」に行ってきました。直筆原稿や書簡、写真や愛用品の展示が圧巻です。三鷹で撮った有名な写真で着ている和風のインバネス(二重まわし、と書いてありました)が入り口に飾ってあって、本人がのそっと立っているかのようでした。生誕105年の展示品とは思えない、保存状態のよさに、ご遺族が遺品を大事にしてきたことがよくわかります。
売り場にガシャポンがおいてあって、缶バッジが出てくるのが楽しかったです。一個100円。「人間失格」は一緒にいった人が出したもの。「生まれてすみません」らしき絵柄がちらちら外からみえて、色のかんじとかよくて欲しかったんですけど、そこは、ほら、ガシャですから。
ちかくの、アメリカ山公園はバラがみごとでした。
全集のありかた
岩波書店の「夏目漱石全集」は、著者直筆原稿があるものは極力著者の文字遣いを再現しようとしているそうだ。次回改訂にむけ、さらに調査はつづいているそうな(2014年5月12日「朝日新聞」朝刊「ひと」欄)。
著者直筆原稿があるものは、それを再現する、それは全集として理想的なかたちかもしれない。ただ、著者によってケースバイケースだと思われる。たとえば、谷崎潤一郎の場合、改造社版の全集に自ら赤字をいれている作品が少なからずあり、また文字の統一などは晩年ちかくまであれこれ手をいれていたため、著者直筆の原稿があるからといってそれが「決定稿」とはかぎらない。著者が生きていた年代までは手を入れた可能性があるので、それを検証しなければいけないのだ。(長命な著者ならでは? 夏目漱石は49歳で没している)
今回の「決定版谷崎潤一郎全集」は、基本的に「愛読愛蔵版」という、一つ前の全集のテキストを踏襲する。それは、手抜きではなく、誤植の少なさ、著者の手入れなど考えたうえで、一番精度の高い文字組だと考えたからだ。ただ、これまでの「谷崎全集」には「解題」や「校異」などがついていなかった。今回の決定版でははじめてこれが各巻の巻末につく。ひとつひとつの作品がいつごろ書かれ、どういう経緯でこのテキストにかたまったかなど、最新の研究成果がはじめて一般読者の目にふれることになる。