生前に刊行された全集の土台
「谷崎潤一郎全集」は、中央公論社から谷崎の生前に一度、没後に二度、合計三回編纂され刊行されている(詳細はこちら)。その前に個人作品選集が何種類かでていて、全集の土台となっている。主なものは下記の通り。
- 「潤一郎傑作全集」全五巻(大正十・一~大正十一・五、春陽堂)
- 「谷崎潤一郎全集」全十二巻(昭和五・四~昭和六・十、改造社)
- 「谷崎潤一郎作品集」全九巻(昭和二十五・七~昭和二十六・一、創元社)
- 「谷崎潤一郎文庫」全十巻(昭和二十八・九~昭和二十九・二、中央公論社)
改造社版が刊行されたのは昭和五年なので、中期まで、といったところ。谷崎自身は中央公論社から全集がでるまで、この改造社版の全集をくりかえし読んで手を入れていた。*1
「谷崎潤一郎文庫」は文庫といってもB6に近く(確認)、いまの文庫判よりだいぶ判型が大きい。
中央公論社から刊行された谷崎全集
「谷崎潤一郎全集」は、これまで中央公論社から谷崎の生前に一度、没後に二度、合計三回編纂され刊行されている。以下はそのリスト。
- 「谷崎潤一郎全集」全三十巻(昭和32年12月~昭和34年7月、中央公論社)
- 「谷崎潤一郎全集」全二十八巻(昭和41年11月~昭和45年7月、中央公論社)
- 「谷崎潤一郎全集」全三十巻(昭和56年5月~昭和58年11月、中央公論社)
それぞれ、下記のような特色がある。
- 「新書判全集」とか「自選全集」などともよばれている。二段組みで文字がひどくちいさいが、30巻あってもあまりかさばらない。古書店でいまだに安価に買え、本人が選んだ作品がコンパクトにたのしめる(刊行後に発表された作品群はのぞく)。棟方志功の板画が金糸で再現された豪華な布装、函入り。豪華なのに手軽な新書判だというのがセールスポイントで、「豪華普及版」とうたわれた。
- 谷崎が昭和40年に亡くなったので、その後出た全集、「没後版」と呼ばれる。菊判函入りで文字も大きい。この全集で初期の作品など、本人が気に入らないからという理由で1から省かれた作品が編年体で読めるようになった。省かれた作品にも魅力的な作品が多く、その理由をさぐるのも一興。
- 書簡や雑纂を中心に補訂し、2に二巻を付け加えたもの。「愛読愛蔵版」と呼ばれる。鴬色の箱が目印。
それぞれに月報が付いているが、それについては別項にまとめる。
このほかに昭和47年から50年に刊行された「豪華普及版」(1と同じ名前でややこしい)という全集があるが、これは「2」をひとまわり小さくしてA5判にしたもので、同内容。
現行では、3の愛読愛蔵版が決定版とされており、研究対象としてこれを使うのが基本になっている。しかし、これからあらたに決定版全集(仮)をつくろうとしているのだから、愛読愛蔵版にはない特色を出し、読者に満足していただき、研究者が納得する全集をつくらなければならない。*1
*1:まだ何巻構成なのかとか、あんなものやこんなことが……という特色をいってはいけないことになっている。非公式の記録ですが、したがうことにします。
卍(まんじ)の装幀が禁忌
フランスのガリマール社に写真を貸したときのこと。学生版プレイヤード叢書みたいなQuartoのシリーズに写真をのせるので御社所蔵の写真を貸してくれ、とのことだったが、結局時間がないので点検してくれ、になり、……(自主規制)……なかった。過去の展覧会の図録などから図版を複写したのがよくわかるレイアウト案で、これは……(自主規制)……写真のクレジットをきちんととって……(以下略)。
とまあ、老舗にしてはラフな仕事ぶりだと思ったが、見本が届いてさらにおどろいた。『卍(まんじ)』の単行本の写真が掲載されているのだが、タイトル部分が墨塗りになっていて、周囲にうつりこんでいるほかの書籍の写真が逆版である。つまり、写真をレイアウトした人は日本語も漢字もわからないので、「卍(まんじ)」をハーケンクロイツとみまちがえ、ハーケンクロイツは「右まんじ」なので全体を校了直前にわざわざ逆版に修正し、「卍」を墨塗りにした……ということらしい。
一応逆版の指摘はしたけれど、重版時修正はされるのだろうか。
図書館と検索システム
国立国会図書館蔵書検索 NDL-OPAC で所蔵資料の検索ができる。まずはここで検索。ただし、著作者の名前のよみかたが一般的なものとちがっていたり、ブラウザで表示できる文字がかぎられていたときの名残で、異体字が検索できなかったりするので注意。
国立国会図書館サーチ
国立国会図書館サーチ NDL Search は、国立国会図書館の新しい検索サービス。ウェブサイトによれば、「国立国会図書館をはじめ、全国の公共図書館、公文書館、美術館や学術研究機関等が持つ豊富な「知」をご活用いただくためのアクセスポイントとなることを目指しています。」とのこと。2012年1月6日からスタート。
東京大学附属図書館
http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/
国会図書館だけではこころもとないので、ここか、都立図書館の検索をサブで使いたい。リンクが大変便利。
国立情報学研究所論文情報ナビゲータ CiNiiサイニィ
http://ci.nii.ac.jp/books/
学術論文や紀要、専門図書・雑誌などを検索できるデータベース・サービス。PDFで公開もされている資料もある。
都立図書館
http://www.library.metro.tokyo.jp/
国会図書館だけではこころもとないときに検索したい。中央図書館と多摩図書館があり、館内で使えるオンラインデータベースがある。江戸東京のコレクションもある。
Amazon
http://www.amazon.co.jp/
いわずとしれたネット上の巨大ショッピングモール。比較的最近の書籍は書影がみられるので、図書館のデータベースに省略されているような要素やデータを目視したいときには使える。