谷崎潤一郎全集

癇癪老人日記

谷崎潤一郎全集編集室の非公式記録です。書誌や資料についてのあれこれ

全集のありかた

岩波書店の「夏目漱石全集」は、著者直筆原稿があるものは極力著者の文字遣いを再現しようとしているそうだ。次回改訂にむけ、さらに調査はつづいているそうな(2014年5月12日「朝日新聞」朝刊「ひと」欄)。

著者直筆原稿があるものは、それを再現する、それは全集として理想的なかたちかもしれない。ただ、著者によってケースバイケースだと思われる。たとえば、谷崎潤一郎の場合、改造社版の全集に自ら赤字をいれている作品が少なからずあり、また文字の統一などは晩年ちかくまであれこれ手をいれていたため、著者直筆の原稿があるからといってそれが「決定稿」とはかぎらない。著者が生きていた年代までは手を入れた可能性があるので、それを検証しなければいけないのだ。(長命な著者ならでは? 夏目漱石は49歳で没している)

今回の「決定版谷崎潤一郎全集」は、基本的に「愛読愛蔵版」という、一つ前の全集のテキストを踏襲する。それは、手抜きではなく、誤植の少なさ、著者の手入れなど考えたうえで、一番精度の高い文字組だと考えたからだ。ただ、これまでの「谷崎全集」には「解題」や「校異」などがついていなかった。今回の決定版でははじめてこれが各巻の巻末につく。ひとつひとつの作品がいつごろ書かれ、どういう経緯でこのテキストにかたまったかなど、最新の研究成果がはじめて一般読者の目にふれることになる。